日本フィルハーモニー物語・炎の第五楽章 <NR企画>


スタッフ
監督 神山征二郎
撮影 森 勝
脚本 神山征二郎 今崎暁巳
プロデューサー 結城良熙 遠藤雅也
原作 今崎暁巳
    「友よ未来を歌え」
    「続・友よ未来を歌え」
音楽監督 林 光
指揮 渡辺暁雄
演奏 日本フィルハーモニー交響楽団
美術 永沢克己
照明 野口素胖
録音 橋本文雄
編集 近藤光雄
助監督 永井正夫 中原 俊

1981年9月19日公開


出演
風間杜夫 田中裕子
日色ともえ 佐藤オリエ
前田 吟 志村 喬
内藤武敏 井川比佐志
浜田光夫 ジエリー藤尾
鈴木ヒロミツ 長谷直美
岩崎加根子 寺田路恵
下元 勉 小池朝雄
殿山泰司 伊藤孝雄
菅野忠彦 中野誠也
吉田次昭 長塚京三
小林勝也 黒部幸英
福原圭一 松崎 真
三遊亭円楽

 

 


<ストーリー>
樺沢昇(風間杜夫)は日本フィルハーモニーのバイオリニスト。
入団したばかりだというのに、日本フィルは放送局の援助打ち切りによって存続の危機に立たされていた。
楽団を去っていく者、残って闘うことを誓う者。楽団員たちには厳しい選択が迫られる。
そんなとき昇は過疎の分校で教師をしている茂木伸子(田中裕子)と7年ぶりに再会する。
二人は幼なじみで、少女時代からひそかに昇を慕っていた伸子は、日本フィルの危機を知り心配して会いにきたのだ。
すっかり成長した伸子に惹かれる昇。
「運命は自分で切り開くもの」という伸子の言葉に励まされ、昇は日本フィルの一員として頑張ろうと思う。
数日後、伸子からの手紙が昇に届く。
日本フィルを故郷・駒ヶ根市に呼ぼうという内容だ。
伸子を分校に訪ね生徒たちの前で伸子のピアノと合奏する昇。
この町での演奏会をなんとしても成功させようと心に誓うものの、放送局からの弾圧は日々厳しさを増していく。
事務所の窓には金網が張り巡らされ、演奏活動と闘いの毎日に疲労困憊の楽団員たち。そんな中、ベテランのチェリスト(内藤武敏)が過労死する。
闘争をするために楽団に入ったんじゃない。重い旗なんか持った手でヴァイオリンの弓は持てはしない。ただ純粋に音楽をやるために日本フィルに入団したはずなのに・・・そんな思いが昇を苦しめる。
果たして駒ヶ根市の空にドヴォルザークの「新世界」は響くのか・・・


風間杜夫、初めての一般映画での主演作。
公開は『ええじゃないか』が先になったが、田中裕子の映画デビュー作でもある。
20年前の封切り時に3回ほど見きりで、かなり内容は忘れてしまった。
今見るとまた感じ方は違うと思うのだが、ビデオ化はおろかテレビ放送もされていない作品なので再見の機会がなく、昔の記憶による感想だということを最初にお断りしておきます。
日本フィルハーモニー交響楽団が、経営者の放送局から援助を打ち切られ、全員解雇されたことに端を発する“日フィル闘争”を映画化したものだが、闘争を前面に打ち出した内容ではなく、日フィルの危機を背景に、若い新人バイオリニストの人間的な成長と、その恋人とのラブストーリーがメインの映画だった。
風間と田中裕子のコンビがとても爽やかで、後味も良くラブストーリーとしてはよく出来ていたと思う。
軽くもなく深刻でもなく、どこにでもいるようなカップル。その普通さ加減がいい感じで、応援してあげたい気持ちにさせられた。
伸子が夜、小さな橋の上で欄干にもたれて昇に「キスしてもらいたいけどココじゃダメね」という場面は出色の出来ばえ。
この場面の田中裕子は本当に可愛かった。
キョロキョロ周りを見回すものの、結局キスする度胸のない風間も可愛かった(^。^)
当時、“翔んでる女”という言葉が流行していたが(笑)、そんな世間の風潮とは関係のないところで、自分の意見を持ち、ちゃんと地面に足をつけてしっかり歩いている人、伸子はそんな女性だった。
恋愛映画としては好感を持って見たけれど、首を切られた楽団員がどんなに大変なのかがあまり伝わってこない。
それまでにも労働争議を描いた映画は幾つもあったが、そういう映画にありがちなパターンに陥ってしまっていたような記憶がある。
この映画の場合、闘争の旗を振るのはブルーカラーではなく、芸術家の集まりというのが異色である。
昇の台詞にあるように「音楽をやること」と「闘争」の間に横たわる距離。それを楽団員たちがどう悩み乗り越えていくのかを、もっと見たかったと思う。

クライマックスの演奏会シーンは調布市市民福祉会館グリーンホールで1981年1月に撮影された。
当時新聞にエキストラ(演奏会の観客)募集の広告が出て、よっぽど会社を休んで参加しようかと悩んだがさすがにそれは断念(^_^;)
今この文章を読んでいるファンの中には、参加した人もいるのでは?
東京の人が心から羨ましかったなあ。
放送局が悪者になっているせいか、一部の上映会をのぞいては封切り後ほとんど見るチャンスのない幻の作品だ。
何年か前に放送局とは和解したということだし、そろそろビデオになってもいいと思うのだが・・・このまま陽の目をみないなんてもったいなすぎる。
一所懸命バイオリンを弾く風間の姿が再び見られるのはいつの日か・・・

※文中敬称略