蒲田行進曲より〜銀ちゃんのこと
<劇団つかこうへい事務所公演>


 スタッフ
 作・演出 つかこうへい
 音楽 大津あきら
 美術 石井強司
 照明 服部 基
 音響 山本能久
 他


 出演
 根岸季衣 
 柄本 明
 風間杜夫 
 平田 満
 石丸謙二郎
 萩原流行
 長谷川康夫 
 酒井敏也
 他


 会場
 紀伊國屋ホール
 1981
12

 大阪公演
 毎日ホール
 1982
1
 入場料 
2500

風間杜夫が初めて倉岡銀四郎を演じた作品。
ヤスと小夏は初演と同じく根岸季衣&柄本明。
初演で加藤健一が演じた銀ちゃんは、残酷な行動の裏にそれを納得させる説得力があったと思う。ヤスへの無理難題が、苦労人の銀ちゃんがヤスに与えた愛のムチに見えて、ヤスの負け犬ぶりが際立っていたような気がする。カトケンと柄本の演技の質もあるのだろうが、かなりヘビーな演技合戦だった。
ところが風間銀ちゃんのわがままは子供のようだ。苦労知らずの子供が好き勝手に振舞って、結果的にそれがすごく残酷な行為になってしまう。
最初に風間版の銀ちゃんを観た時は初演の印象が強烈だったので、何だか違うような思いもあった。でも今はその子供っぽさと背中合わせの都会的なスマートさ(舞台の風間銀ちゃんの衣装は地味だ。映画の衣装は王将ネクタイなど加藤銀ちゃんの泥臭い派手さが受け継がれたものである)が風間銀ちゃんの大きな魅力だったと思う。理屈ぬきにカッコよく愛らしく残酷。それが風間銀四郎だった。
日本刀のように切れ味するどい演技の加藤健一は本当に上手い役者だし、加藤銀四郎には「男の生き様」的な渋さと重さを伴うカッコよさがあった。
しかしなまじ説得力があるばかりに、無条件に愛されるムチャクチャさが加藤版には少ない。銀ちゃんとヤスが師匠と弟子の関係にみえる。それも間違いではないのだろうが、今となっては明るくちょっと下世話に色っぽい銀ちゃんのイメージが定着しているので、それ以外の銀ちゃん像には違和感を覚えてしまう。それは執念深くねじれた柄本版のヤスにも言えるのだが。
やはりヒットした映画の影響は、良くも悪くも大きい。
根岸季衣は映画の松坂慶子とは違って、ボーイッシュだけれど可愛い小夏を演じていて、良かった。二人の男の間で揺れる心を切なく演じるとともに、過激に依存しあうヤスと銀四郎の甘えを、母のように包み込む包容力も感じさせてくれた。
テレビや映画では地味な役が多いが、舞台でのダイナミックな踊りや骨太な存在感を知っているものとしては、少々淋しい。また舞台でハツラツとした姿をみせて欲しいものだと思う。
『銀ちゃんのこと』では当初、風間がヤスを、柄本が銀ちゃんを演じるという情報もあったが、幕が開いてみるとやはり風間銀ちゃんに柄本ヤスだった。
つかこうへいは対談で「本当は(映画の)銀ちゃんは渥美清さんのような人にやって欲しかった部分も少しはある。ああいう人がスターの残虐さを出したら面白いだろうと。むしろ風間にはヤスを演じてもらいたかった」と言っていた。一方、映画版の監督・深作欣二は「本当のスターが演じたら、おそらく銀四郎の哀しみは出なかった」と最近のインタビューで語っている。
二人の描きたいものの違いが出ていて興味深い発言だと思う。

※文中敬称略