朝・江戸の酔醒 <五月舎公演>


 スタッフ
 作    佐藤五月
 演出   小林 裕
 美術   石井強司
 照明   鵜飼 守
 音響   深川定次
 衣装   桜井和命
 殺陣   國井正廣
 演出助手 郷田拓実
 舞台監督 杉本正治
 制作   本田延三郎
 制作協力 現代制作舎
 舞台写真 谷古宇正彦

 


 出演
 風間杜夫
 范文雀
 金井 大
 滝田祐介
 林 昭夫
 三好美智子
 蔵 一彦(85年)
 森下哲夫
 梶 美和子
 丸林昭夫
 石田圭介(83年)
 内藤剛志(85年)
 草薙良一
 永江智明
 他


 初演
 1983年9月
 紀伊國屋ホール 再演
 1985年1月4〜15日
 シアターアプル(東京)
 1月17・18日
 大阪・毎日ホール
 入場料4500円
 1月19・20日
 神戸国際会館
 1月22〜26日
 名古屋市民会館
 1月27〜29日
 京都・南座

つかこうへい事務所解散後、初めて出演した舞台。
もとは映画の台本だったものを風間が気に入り、舞台用に書き直し上演したらしい。
風間は鶴屋南北の修行時代を演じた。
つか芝居とはまったく違うきっちりとした物語、演技、舞台装置(つか芝居にはほとんどセットがなかった)。よく出来た物語であったが、なんせまだつか芝居での風間の演技の記憶が鮮明な頃だったので、物足りない思いはどうしようもなかった。つか芝居の風間というフィルターがなければ、もっと冷静に受け止められたのだろうが。
正直言って、映画『蒲田行進曲』をきっかけにして爆発的な風間ブームが起こった時には、もう舞台には出ないのでは?と思った。それまでにも小劇場出身の人気俳優はいたが、そのほとんどがマスコミで売れると舞台活動をやめてしまうというパターンだったから、風間もそうだろうと勝手に想像していた。
ところが風間はどんなにテレビや映画で忙しくても舞台に立ち続けた。つか事務所解散から現在まで、映画に出ていない年はあっても舞台に立っていない年はない。
小林薫が「唐十郎さんの世界が好きだったのであって、舞台に拘りがあったわけじゃない」と、以前インタビューで語っていた。豊川悦司も似たようなことを言っていたと思う。「舞台が好きというより(渡辺)えり子さんの世界が好きだった」と。
しかし風間の場合は舞台に拘り続けた。生の身体を観客の前にさらして演じるという行為そのものが、役者・風間杜夫の生命線だったのかもしれない。そしてそのことが間違いなく今の風間に蓄積され、役者としての厚みを与えている。ファンにとっても「ナマの風間さんが見られる!」という喜びを持ち続けられたことは幸せだった。
映画やテレビでどれだけ活躍しても、その期間は長く続くものではない。それより地味ではあっても、直接舞台を見られるほうがファンは嬉しいのではないだろうか? ただ舞台は地方公演が限られているということが、大きなネックではあるのだが。どれだけ精力的に地方を廻ろうと、行ける範囲は限られている。テレビの電波には遠く及ばない。それでも私は思う。テレビより映画より、舞台で輝く風間杜夫を見たいと。
この『朝・江戸の酔醒』の演技で、風間は紀伊國屋演劇賞の個人賞を受賞しているが、改めて舞台人・風間杜夫の第一歩となった作品と言えるのではないだろうか。

※文中敬称略