ロマンス <読売テレビ/テレパック>


スタッフ
チーフプロデューサー 岡本俊次
プロデューサー 黒沢 淳
演出 森 一弘 日名子雅彦 
    富塚博司
脚本 長谷川康夫 飯田健三郎
    小川智子
原作 つかこうへい「ロマンス」
            (光文社文庫)
音楽 渡辺敏幸
主題歌 「WIRED」 TRF
挿入歌 「WISH」 hitomi
     「Free Bird」 黒沢健一
タイトルバック演出 片岡K
タイトルバック出演 熊川哲也
放送 1999年4月〜6月
2000年1月21日ビデオ発売(VAP)


出演
宮沢りえ 池内博之 吉田智則
雛形あきこ 加藤晴彦
風間杜夫 西村和彦
平田 満 西岡徳馬 泉ピン子
河合美智子 秋本奈緒美
松尾としのぶ 松村邦洋
石丸謙二郎 長門裕之 
美木良介 加賀まりこ
国広富之 春田純一 重松 収
甲本雅裕 芽野イサム

 


<ストーリー>
ノンフィクション作家・筧耕太郎(西村)の助手をしている倉沢みづき(宮沢)は、 筧が断ったオリンピック候補の水泳選手・青木繁(池内)の取材を、単独で始める。
みずきと繁は惹かれあい、やがて恋人同士となるが、繁の幼なじみの純平(吉田)もまた、繁に友情以上の感情を抱い ていた。
純平を愛するゆり子(雛形)や繁のマネージャー・織田(加藤)も巻き込んで、5人の複雑な愛憎関係が始まる。
一方、繁の父・雄一郎(風間)は、筧と過去に秘密があった。雄一郎も筧も妻(河合&秋本)とはうまくいっておらず、繁とみづきが出会ったことで、大人たちの関係にも、変化が生じてくる…


<役どころ>
青木繁の父で高名な外科医・青木雄一郎役。女性を愛することが出来ないホモセクシャルであるが、偽装結婚をしている。
過去に、医者と患者として出会った筧を愛し一度だけ関係を持つが、そのことで筧は雄一郎のもとを去ってゆく。雄一郎は筧を傷つけてしまったと悔やみながらも、ずっとひそかに愛し続けていた。
最初の妻(加賀)はそのことに気付き、幼い繁を置いて姿を消してしまう。
筧と繁には深い愛情を寄せるが、妻にはひどい言葉を投げつける冷たい一面を持った男として描かれていた。
ドラマの後半不治の病に倒れ、最後は15年ぶりに再会し結ばれた筧とモロッコで心中する。


つかこうへいの小説「ロマンス」(「青春・父さんの恋物語」を改題)と、舞台の「ロマンス」をもとにテレビドラマ化。
私は「ロマンス」の初演(当時のタイトルは「いつも心に太陽を」)で演劇にハマり今に至っている人間なので、この芝居には特別な思いがある。だから最初にドラマ化のニュースを聞いた時には無関心ではいられなかった。
でもその後、発表されたキャストやストーリーを見ると、繁と純平の設定だけは同じものの、後はまったく違う内容でちょっとガッカリ。それでも脚本はかつてつか事務所の俳優だった長谷川康夫だし、初演で繁と純平(舞台ではモリオとミツル)を演じた風間&平田の黄金コンビが出演となれば、それが出番の少ない役であろうとやはり嬉しくないはずはなく、期待と不安の入り混じった気持ちでテレビ版「ロマンス」を見始めたのだが…

最初は若い男女がくっついたり離れたりするよくある軽い恋愛ドラマかと思った。グループの中の一人がゲイだという設定も珍しいものではない。3話目ぐらいまでは意味なく街中で踊ったり、繁のちゃらんぽらんな性格が強調されていたりして、明るく時に喜劇的に演出されていた。
ところがこのトレンディドラマもどきのようなトーンが不評だったせいか、物語が進むにつれて純平のエキセントリックな行動が目立つようになり、最後の方はまるでストーカーである。
視聴率が悪かったらしいので、視聴者の目を惹きつける為に刺激的な展開にしたのだろうが、純平の繁を思う気持ちや追い詰められていく心情が納得できる形で描かれていなかったために、単なるアブナイやつになってしまっていた。
「気色わるいだろ、これがオレなんだよ」と自分をさらけ出す純平の被虐性は、つかこうへい的であり胸を打つものではあったけれど、その後の行動の自分勝手さは、とても感情移入できるものではなかった。
舞台の魅力は繁と純平の、クルクルと立場の入れ替わるSM的な関係にあった。一方が優位に立っていたと思ったら、ほんの一言の台詞でその立場は逆転する。繁と純平の痴話げんかがやがて別れ話に発展していくのだが、二人が激しく言葉をぶつけ合う時のリズム感と、ちょっとでも油断していると足元をすくわれてしまう緊張感を観客は楽しみながら、二人の吐く言葉が持つ切実さや痛々しさに、胸を打たれていたのだと思う。
ところがテレビでは繁はノンケだという設定なので、ぶつかり合う動機が希薄である。優しくしてくれる相手には無条件に甘えてしまう性格の繁は強く純平を拒否することが出来ず、結果、逃げてばかりだ。
テレビでも舞台の味を残したかったのか、アパートの部屋で言い争うシーンが出てくるが、繁は友達だと思っていた純平から言い寄られて困惑しているということになっているから、純平の異様さだけが目立ってしまっていた。男同士の別れ話だからこそ成立していた舞台の台詞をそのまま使ったりした為に純平の性格設定に破綻をきたし、キャラクターが暴走してしまう。そのあげくの果てが無理心中(未遂)である。最もこの無理心中は、雄一郎と筧の心中との対比でもあるわけだが、どっちの心中も唐突であるという点では同じだろう。
繁がフラフラしているのにつられてみづきの行動にも一貫性がないうえに、建前ばかりで生身の人間の感情が感じられない。主役に一本筋が通っていないので、まわりの人間も振り回される。最終回では何とか感動的にまとめてはいたが、純平を殺して奇麗ごとに逃げたという印象は否めず、若者たちの恋の顛末は、迷走の果ての苦し紛れという感じだった。
表面的なインパクトや刺激よりも「恋人を男に取られた女」を、それが出来ないのなら「ノンケが男から真剣に愛されたらどうするのか」を、きちんと描いてほしかった。若者グループだけで物語が進んでいたら、きっと最後まで見るのが苦痛だっただろう。
若者たちのくっついたり離れたりのストーリー展開が行き詰まってくるのと入れ替わりに、存在感を増し輝きだしたカップルがいる。青木雄一郎と筧耕太郎だ。
正直言って、最初は風間の出番が少ないのが不満だったし、西村和彦という役者のこともあまりよく知らなかったので、このワケあり風な二人がその後のストーリーに絡んできそうな予感はあったものの、たいした役ではないだろうと思っていた。
ところが筧の事務所の近くで15年ぶりに再会したあたりから、雄一郎と筧の純愛ドラマになっていくのである。もちろん表向きは繁とみづきの物語なのだが、このドラマを見ていた視聴者の多くは、主役そっちのけでこのアダルトカップルの愛の行方が(男同士でどこまでやるんやラブシーンという下世話な興味も含めて)気になっていたのではないかと思う。ドラマの後半を引っ張っていたのは、間違いなく風間杜夫と西村和彦だった。
もともと風間は切ない芝居のうまい俳優である。今回のドラマでも、報われないと思いながらも愛することを止められない中年男の気持ちが胸に痛くて「いくつになってもこういう役が上手いよなあ」と、個人的には大満足。モロッコで筧と再会した瞬間の風間の表情! 凄みさえ感じさせて良かったなあ。
そして物語が進むにつれて、西村和彦がどんどん良くなっていくのである。凛々しいし、カッコいいし繊細だし、このドラマでファンが増えたのではないだろうか?
この二人の2ショットを見ていて気付いたが、こりゃ新旧の「母性本能刺激型俳優」カップルではないか。ある種の女性(男性も?)にとっては、たまらん組み合わせだ。このキャスティングに対してのみなら、100点差し上げる。よくぞ選んだものだと思う。
主役のキャラクターの薄さに比べて、ベテランはみんなハマり役だったが、中でも風間と西村の熱さは群を抜いていた。本来の「ロマンス」のテーマである“愛することを恐れてはいけません。人を愛しく思う気持ちにおびえてはなりません”という台詞に一番沿っていたのは、この二人だろう。
しかしあくまでも雄一郎と筧はサブストーリーである。だから出番も少ない。物語の終盤で二人の関係が週刊誌にスクープされるが、そこから一般社会の中でのゲイの立場にまで踏み込んでいくのかと期待したのに、その点はうやむやなまま終わってしまった。
また、30代でまだ子供も小さく一番仕事にのっているはずの筧が、なぜすべてを捨てて愛に殉じるのか、その心情を納得させるにはあまりにも書き込み不足だった。
舞台の最後の台詞は確か「生きていかなくっちゃね」だったはず。筧も純平も死んじゃいけなかったと私は思う。純平の死は、物語をまとめるための段取りに、筧の死は「失楽園」の二番煎じに見えてしまうのが哀しい。愛する人と死ぬことではなく、愛する人を失った痛みを抱えながら生きていくことこそがドラマではないのか?
風間と西村が良かっただけに、ドラマ全体に流れる安易さが、残念だった。

※文中敬称略